後立山(長野/富山) 針ノ木岳(2820.7m)、小スバリ岳(2740m)、スバリ岳(2752m) 2024年5月25日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 2:31 扇沢市営駐車場−−2:37 登山口−−2:50 林道入口−−3:11 堰堤(標高1600m付近)−−3:26 最終堰堤−(落とし物捜索)−4:12 最終堰堤 4:17−−4:25 針ノ木雪渓末端(標高1730m付近)−−5:22 マヤクボ沢出合(標高2240m付近)−−5:58 針ノ木峠(標高2536m)−−6:43 針ノ木岳 7:06−−7:20 マヤクボノコル 7:22−−7:33 小スバリ岳−−7:39 スバリ岳 7:41−−7:54 マヤクボノコル 8:06−−8:19 マヤクボ沢出合(標高2240m付近)−−8:52 最終堰堤−−9:11 林道−−9:19 車道−−9:32 登山口−−9:36 扇沢市営駐車場

場所長野県大町市/富山県中新川郡立山町
年月日2024年5月25日 日帰り
天候
山行種類残雪期の一般登山
交通手段マイカー
駐車場扇沢駅直下の有料駐車場より下に市営無料駐車場あり。ただしハイシーズンには早朝に満車になるので注意
登山道の有無篭川沿いの標高1620m付近から標高1800m付近までの間及びマヤクボ沢以外はあり。ただしこの時期はスバリ岳〜針ノ木岳以外の登山道はほぼ全て残雪に覆われてルート不明
籔の有無無し
危険個所の有無ヤマクボ沢、針ノ木峠〜針ノ木岳間は雪の急斜面があり滑落注意。10本爪以上のアイゼンとピッケルが必須
山頂の展望各山頂とも晴れれば大展望
GPSトラックログ
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コメント残雪を楽しみに今年初めての針ノ木岳へ。往路は針ノ木岳峠経由で針ノ木岳に登り、スバリ岳に登ってからマヤクボ沢を下った。今年は残雪が少なく標高1640mの堰堤を越えた先で雪が断続的にしか無く根曲がり潅木の間を進む。大沢を越えた先の潅木藪でウェストポーチを落として捜索に約1時間もかかってしまったが登頂断念に到らずに済んだ。マヤクボ沢はまだ雪が繋がっていた。コロナの後遺症が続いて今回の山行は過去の針ノ木岳よりも格段に疲れた!


標高2700m付近から見た針ノ木岳山頂に繋がる稜線。まだ夏道は出ていないので急な雪面のトラバースが続く


市営無料第一駐車場。霧がかかってテンションダウン 扇沢駅の建物に明かりが点いていた
ゲート横の登山口 林道入口
鳴沢出合で雪が登場。でもかなり少ない 標高1600m付近の堰堤。無雪期には長い梯子がかかる
標高1640m付近の堰堤 約1時間の捜索で落としたウェストポーチを無事発見!
最終堰堤にデポしたザック 最終堰堤から上流を見ている
標高1700m付近で流れに接する雪に乗る 一時的に河原を歩く
標高1720m付近で再び雪に乗る 標高1730m付近で雪渓末端に達する
標高1770m付近 標高1800m付近の夏道が河原に下りる地点
標高1800m付近から上流を見る 標高1860m付近。左岸の谷から大水が流れたようで本流が雪壁化
標高1870m付近 標高2080m付近
マヤクボ沢出合から見た針ノ木峠方面とマヤクボ沢方面
マヤクボ沢はまだ雪がつながっていた なかかの傾斜で足にくる
針ノ木峠。雪は屋根の高さ 針ノ木峠から針ノ木岳方面。最初は夏道が出ている
アイゼンのまま歩くのは忍びない コイワカガミとコケモモの葉。まだ花芽は出ていない
標高2570m付近で再び雪に乗る 標高2590m付近から見た南側の展望
標高2660m付近 標高2720m付近
標高2750m付近から振り返り 標高2750m付近から見た山頂方向(山頂は見えていない)
雪壁を登り終えると山頂は目の前 針ノ木岳山頂
針ノ木岳から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
針ノ木岳から見た袈裟丸連峰 針ノ木岳から見た奥日光
針ノ木岳から見た立山〜剱岳 針ノ木岳から見た剱岳
針ノ木岳から見た黒部別山、坊主山方面 針ノ木岳から見た針ノ木雪渓
落とし物捜索中に先行した男性。マヤクボ沢を下っていた マヤクボノコルから登ってくる男性
スバリ岳に向かって下り始める マヤクボノコルから登ってきた男性とすれ違い
マヤクボノコル コルの西側には幕営適地あり
マヤクボノコルの東側。残雪が接している コルの僅かにスバリ岳側に荷物をデポ
コルからスバリ岳までは登山道に残雪は無い もうミヤマキンバイが咲いていた
コメバツガザクラも開花 ハクサンイチゲは蕾
小スバリ岳手前から見た小スバリ岳とスバリ岳 小スバリ岳山頂
小スバリ岳から見たスバリ岳 スバリ岳直下
スバリ岳山頂 スバリ岳から見た立山
スバリ岳から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
スバリ岳から見た蓮華岳と針ノ木峠 スバリ岳から見た針ノ木岳
スバリ岳から見た薬師岳 マヤクボノコルからマヤクボ沢を下る
標高2560m付近からコルを見上げる 標高2530m付近。左にトラバース気味に下る
標高2370m付近 標高2270m付近
標高2240m付近 標高2050m付近
標高1860m付近 標高1860m付近
標高1810m付近の夏道入口 ショウジョウバカマ
オオバキスミレ 今年初のシラネアオイ。まだ数は少ない
標高1750m付近 標高1720m付近。雪渓末端
雪渓末端から短いながら雪が無い河原歩き 標高1700m付近
標高1690m付近 標高1690m付近の最終堰堤
最終堰堤の下流から藪に突入 標高1680m付近
今年初のヒメイチゲ ツツジ
大沢。ここだけは雪が残っている 今年初のエンレイソウ
標高1640m付近で雪に乗る 標高1600m付近の堰堤
標高1600m付近の堰堤(下流側) 標高1580m付近の廃林道
今年初のサンカヨウ 林道終点
キジムシロの花 キジムシロの株
オオタチツボスミレ タチツボスミレ
ベニバナイチヤクソウの蕾 林道入口
ニリンソウ。林道脇にはたくさん咲いていた タチツボスミレの群落
タチカメバソウ オオバキスミレ
淡い色が付いたニリンソウ 電気バス
登山口 登山口横のゲート
扇沢駅。観光バスが多数入っていた 有料駐車場はガラガラだった
扇沢から稜線を見上げる 市営無料第一駐車場。満車だったが第二駐車場はガラガラだった


 先週は燕岳に登ったが思ったよりも足は重くはなく、下りでも余裕があった。今回は少し負荷を上げて針ノ木岳とした。ここは扇沢から標高差約1400mだがマジなピッケルにアイゼンが必要なので今年の山行の中で一番荷物が重くなるし、雪渓に乗って以降はずっとアイゼンを付けたままになるので足への負荷も大きい。これに耐えられれば標高差約1600mの常念岳もいけるであろう。

 コロナ前の体調なら大沢を登って蓮華岳に直登して針ノ木峠へ下って針ノ木岳へ登り返し、マヤクボノコルへ下って空身でスバリ岳を往復してマヤクボ沢を下るのだが、今の体調ではこれは無謀であろう。蓮華岳は割愛して針ノ木岳とスバリ岳、場合によっては針ノ木岳のみにしてもいい。どうするかは疲労度合で判断することにした。

 早めに会社をあがって扇沢の市営第一駐車場到着は午後7時頃。残雪期と夏山シーズンの端境期だからか駐車場はガラガラで2割程度しか車が無い。できるだけ奥の場所で両側に無人の車が止まった区画を確保。これなら夜中に隣に車がやってきて起こされる心配が無い。残念ながら到着時は弱い雨が降っていたが予報では夜中に回復して朝には晴れるはずである。ただし午前6時の標高3000m付近の予想気温は+3℃、平均風速は北西の風が15〜17m/sと強く、体感的にはかなりの寒さが予想された。でも針ノ木岳なら山頂に出るまでは稜線が風をブロックしてくれるので大助かりだ。酒を飲んで寝たが、今週は仕事の肉体労働で疲れたので爆睡だった。

 夜中2時前に起床。雨は降っていないが残念ながら周囲は濃霧。林道の草が濡れて防水性能が大幅に劣化した私の登山靴だと浸水するかな。気温は+10℃を少し越えるくらいでそれほど寒くはないが、時間があるので飯を温めて食った。

 今回の装備は10本爪アイゼン、マジなピッケル、ロングスパッツ、ダウンジャケット、防寒テムレスに久々に使い捨てカイロを持つことにした。これらは防寒対策だが、好天のため下山時は暑くなると予想されるので、暑さ対策で扇、濡れタオル、半ズボンを持つことにした。気温は低めなので水は200ccとしたが、実際にはほとんど飲むことはなかった。

 午前2時半前に霧の中を出発。針ノ木岳到着は午前6時半の予定である。夜中なのに関電トンネルへ通じる車道は工事の真っ最中で音がしていた。日中は定期運行の電気バスがひっきりなしに通るので工事ができないのであろう。ご苦労様。閉じたゲート脇から登山道に入るとニリンソウの花が目立つ。花の写真は帰りに撮影するので往路は黙々と歩く。

 一度車道に出てショートカットの登山道を通過して次の車道に出たらそのまま車道歩き。冬道入口の林道に行くにはこのルートでないと林道入口を行き過ぎてしまう。林道に入ると後ろから光が接近。この季節に私の他にこんな時間帯に冬道を歩く人がいるとは驚きだ。えらい足の回転が速くてあっという間に追い越していった。今の私ではあんなペースで歩くのは不可能だ。この頃には霧の層を抜けたので低い雲海だったようだ。樹林が開けた場所では雲が多いものの隙間から星が見えたので、予報通り天気は回復傾向らしい。

 この林道は残雪期に何度も歩いているのでこの時期の残雪の様子は想像できるが、思っていたよりもかなり少ない。大体、最初の残雪が出てくる鳴沢出合では雪が山のように積み上がっているのが普通であるが、今回は地面を薄く覆う程度しかない。鳴沢から流れてきたデブリが非常に少なかったようだ。他でも雪が少なくて標高1600m付近にある無雪期には長いアルミ梯子がかかる堰堤の下流側の廃林道はほとんど雪が無かった。これでは針ノ木雪渓末端まで雪が続いているとは思えず、少なからず藪漕ぎが必要だろう。まあ、それは当初から想定していたが。2週間前に登った爺ヶ岳から見た針ノ木雪渓下流の篭川の残雪が非常に少なかったからだ。

 標高1600m付近の堰堤は残雪があり、古くて短い常設の梯子を使うまでもなく右岸から簡単に越えることができた。その先は赤沢から押し出したデブリのおかげでまだ残雪が続いていたが、ここも例年よりも雪はずっと少なかった。無雪期はここに橋がかかって大沢小屋の荷上げ道が左岸に移るが、残雪期は橋はかかっていなくてスノーブリッジで対岸へ渡る。よってスノーブリッジが消えてから橋がかかるまでの期間は荷上げ道が使えないが、今年はその期間が長くなるのは間違いないだろう。その間は遠回りになっても夏道を歩くしかない。

 標高1640m付近で残雪が消えてしまい、根曲がり木の隙間が広い場所を狙って適当に進んでいく。まだこの付近は何となく踏跡があるような気もするが、進むに従って徐々に薄くなってやがて消えてしまう。雪が消えて藪が出ていても基本的には篭川の流れに沿って歩きやすい場所を遡上すればいい。もちろん雪の上が藪が隠れて一番歩きやすいが、暗闇の中だと残雪が続いて歩きやすい大沢に吸い込まれやすいので注意。大沢の雪渓を横断して対岸は切り立って取り付きが厄介である。法面のような岸に上がると根曲がり木のオンパレードであり、とにかく隙間を見つけて横移動するしかない。この大沢左岸の藪の中で先行者を追い越した。

 藪を抜けて残雪に乗ると標高1690m付近で最終堰堤が登場。ここを下って篭川の流れのすぐ横に達したところをデジカメで写真に収めようとしたら腰のウェストポーチがない! どうもバックルの差込が甘かったらしく、上から締めていたザックのウェストベルトで共締めされていて落下しなかったようだ。

 ウェストポーチの中で最重要物件は車の鍵。これがないと車に入ることができず帰ることもできない。山行を諦めてでも探し出す必要があり、最終堰堤の上流側にザックをデポして空身で下りながら探すことにした。しかしまだLEDライトが必要な真っ暗な時間帯であり、よりによって落としたウェストポーチは黒なので藪の中の土の上では目立たない存在だ。最後にデジカメを使ったのは標高1600m付近の堰堤で、おそらく落としたとしたら大沢の雪渓を横断して切り立った岸に這い上がって根曲がり木の藪の中を進んだ時だろうと予想が付いた。この時は体を無理な体勢にしているので落としやすいし、藪の中では落としても気付きにくいだろう。

 最終堰堤を下るところで追い越した先行者が上がってきた。彼が私に追い越されたのは道が無いからであり、どうルート取りするのが正解なのか知らないから。そこで彼には道が無くてもこのまま篭川の流れに沿って遡上するように伝えた。落し物を発見後に針ノ木雪渓を上がっていたら新しいアイゼン跡があったので無事に藪を突破できたようだ。

 落し物の捜索だが、暗い中では見つけられる確率は非常に低いとは分かっていたが、明るくなるまで何もしないのも時間を持て余すため、ライトの光だけで探してみることに。まずは最後に写真撮影した標高1600m付近の堰堤まで下りながら探してみるが、雪の上はトレースがあってルートが固定されているのでいいのだが、大沢周辺の雪が消えた藪の区間は往路でどこを通ったかを同定するのは不可能。最初の一往復では見つけることはできなかった。ザックをデポした最終堰堤に戻ると徐々に明るくなってきた。これならライトの光が届かない場所でも見えるようになるのでもう一度トライ。今度は防寒装備を着てから。先ほどは半袖のまま行動していた。

 最終堰堤を下って短い残雪を下り根曲がり木の藪に突入して歩きやすい隙間を下っていくとウェストポーチを発見! これほどうれしい出来事は最近では感じたことがない。少なくとも針ノ木岳登頂よりは格段にうれしかった(笑) 正確な時間は帰宅後に調べてみないと分からないが、おそらく1時間くらいタイムロスと体力消耗しただろう(正確には約45分だった)。でもまだ午前4時過ぎなので針ノ木岳登頂を諦める必要はない。ただし落とし物探索で無駄な体力を使ってしまったことの方が手痛かったかもしれない。

 最終堰堤に戻ってアイゼンを装着して先に進む。もうライトは不要なのでザックの中へ。川の流れに接するように残雪が現れてこの先は藪から開放されたが、岸の残雪が急な場所がありアイゼンを付けていても滑落してしまった。幸い、高さが低かったので流れに落ちる前に止めることができたが、本当に危険な場所よりもこんな何でもない場所の方がミスが起きやすい。

 残雪はずっと続くわけではなく雪が消えた河原を歩く場面も。ここでできるだけ流れに接近した方が木の藪を回避できたことは帰りに判明。往路では余分な藪漕ぎをしてしまった。

 現在の針ノ木雪渓の末端は標高1730m付近で、夏道から雪渓にショートカットする残雪期用の道の出口付近であった。雪渓に乗ってしまえば後は歩きやすい場所を適当に登るだけ。既に先行者の姿は雪渓上に見えない。当然ながらこの時期は雪渓は固く締まって非常に歩きやすいしロングスパッツは不要だ。ピッケルをザックから手に持ち帰ると背中がかなり軽くなった。でも足には軽量とは言え10本爪アイゼンなのでツボ足より重い。時間が経過すると共にこの影響はじわりと効いてくる。

 雪渓は谷筋なので日光が当たるのは日の出からずっと後である。でも稜線がモルゲンロートに染まるのが見えたので日の出は分かった。予報では雲量は30%だったが実際には早朝は快晴だった。まだ谷間なので風は感じない。

 標高1860m付近では左岸側の支流から大量のデブリではなく水が流れ込んだようで、針ノ木雪渓本流の雪が溶かされたか削られたようで、本流には高さ3m以上の雪壁ができていてびっくり。ここは毎年歩いているが本流でこんな大きな雪壁を見たのは初めてだ。幸いにして右岸付近は雪壁化していないので、ここだけは右岸に接した付近を登った。しかしこれだけの雪壁を作るほどの大量の水が流れ込むような大雨がこの時期に降ったとは驚きだ。ただでさえ今年は雪が少ないのに雨が多いと雪解けがさらに加速してしまう。

 標高2050m付近のノドで傾斜が緩む。ここは左岸側に秋道があるが、その起点の岩場は雪に完全に埋もれてしまっていた。あの高さが埋もれるのだから相当な雪の量である。ノドの先はマヤクボ沢出合で、往路では私はここからマヤクボ沢を登ることが多いのだが、今回は体力面で心配があり、まずは針ノ木岳に登って余裕があればスバリ岳往復を追加したいため、登りは針ノ木峠経由とした。このルートだとマヤクボ沢を下る時間帯は日差しで雪渓が適度に緩んでいるだろうから、急な雪面でも緊張ではなく楽しめるだろう。

 針ノ木峠への雪渓も結構急であり足に堪える。さすがにこちらには昨日のものと思われる明瞭な足跡が残っており、先行する男性の新しいアイゼン跡も時々見られた。この時間はまだ気温が低いし日が当たっていないので雪が締まったままであり、足を乗せても雪が沈むことはないので先人の足跡はアイゼン跡だけである。まだ最終水場も最後の左岸の赤茶けたガレのジグザグ道も全てが雪の下であり、雪渓の中央部を延々と登り続ける。

 ようやく針ノ木峠に到着。小屋は南側はもう雪は消えているが北側は屋根の高さまで雪が残っていた。ここは風が強く寒くなったのでウィンドブレーカと毛糸の帽子を追加した。防寒テムレスでもちょっと指先が寒いので使い捨てカイロを使おうかとも思ったが、この天気ではおそらくカイロを使うのは1,2時間くらいであり、今回はカイロを密封して保存可能にできる袋を持ってきていないこともあって、カイロは使わずに我慢することにした。

 テント場はまだほとんどが雪の下で地面が出ているのは1張分くらいか。今は小屋の前に張るのがいいだろう。この先は少しの間は雪が消えて木の階段や岩の上を歩くが、標高2570m付近から雪が登場。この先は雪が多ければ稜線直上の岩場を通過可能だが、もうその時期を過ぎて岩場の北側を巻くようにトレースが付いていた。昨年は明瞭なトレースが無かったが今年は非常に明瞭で、ステップが切れていたのでトラバース区間でも思ったよりは安全に通過できた。でもバランスを崩さないよう注意が必要だ。

 標高2750m付近でトラバースを終えて稜線に復帰。次は標高2790m付近の雪壁。いつもはここを下るが今回は登り。ステップが切れているとは言ってもさすが雪壁で、雪がまだ硬いのでピッケルを振ってブレードを突き刺してホールドにする。このような使い方をする場合、シャフトがカーブしたピッケルの方が2点で支えられるので信頼がおけるのだが、私のピッケルはまっすぐなので不利。そろそろ買い換えるかなぁ。雪壁登りは足の負担が大きく攣りそうになった。こんな場所でこんな状況ではコロナ前の体調に程遠いなぁ。

 雪壁を越えれば山頂はすぐ。針ノ木岳山頂に到着すると無人で、先行の若者はマヤクボノコルへと下ったようだ。スバリ岳へ繋がる稜線には人の姿は見えず、針ノ木雪渓のマヤクボ沢出合付近をデジカメで拡大すると下っている人を発見。先行していた若者に違いないだろう。あのスピードだったらスバリ岳往復もやったかな。

 久しぶりの針ノ木岳山頂は好天で大展望。ただし空気の透明度はベストではなく、八ヶ岳、富士山。南アルプスは霞んでいた。東の志賀高原の本白根山と四阿山の間には袈裟丸連峰が、横手山の左側には温泉ヶ岳が見えているが、他の奥日光や尾瀬の山々は見えない。近場の北アルプスはぐるりと見えていた。疲れたので山頂で小休止。針ノ木雪渓を見下ろすと数人の姿が。マヤクボ沢へ登っている姿も見えた。

 休憩を終えてマヤクボノコルへと下り始める。見下ろして登山道上に残雪が見えているのでアイゼンは手に持ったままだ。距離にして5mくらいだが滑ったらヤバい場所であり、特に下りはアイゼンを使った方がいい。

 ガレガレの斜面を下って標高2780m付近の短い残雪箇所でコルから登ってきた男性とすれ違い。この男性もここだけのためにアイゼンを手に持って登ってきたようだ。雪を通過してアイゼンを脱いで手に持ったままコルまで下っていく。マヤクボノコルの西端には西寄りの風をブロックするように石が壁状に積まれた東側に砂礫の平坦地があり、冬や残雪期の幕営地になっているようだ。

 マヤクボノコルを通過して僅かにスバリ岳側に登った箇所でザックをデポしてスバリ岳を往復することにした。針ノ木岳の下りでは体力に余裕を感じられたので空身なら大丈夫だろう。若干の防寒装備を持ってアイゼン、ピッケルはデポ。この稜線は早い時期に雪は消えてしまう。

 空身にも関わらずコルの登り返しは思ったよりも体力的にきつかった! 体力が落ちていると言うよりも足の筋力が落ちていると思う。コロナで筋肉に何かダメージを負ったのだろうか。特に左足の筋力低下が顕著に感じられた。

 この稜線では毎年高山植物が早く咲くが、今回はミヤマキンバイがもう花を咲かせていた。ミヤマダイコンソウは葉っぱは出ていたが花はまだ。コメバツガザクラの花はたくさん咲いていた。ここではハクサンイチゲも早く咲くが蕾がもう出ていた。もしかしたら来週には咲いているかも。

 往路では小スバリ岳山頂に立ち寄るが、ここは地形図記載の山ではないので訪問者は少ないだろう。山頂標識は無いが、その代わりに昨年には無かった石が置かれていた。ここからは正面に針ノ木岳が大きく威圧的だ。

 登山道に戻ってスバリ岳への最後の登り。大した標高差ではないのにこれは苦しかった! 無人のスバリ岳山頂で写真撮影してコルへと下った。下りで使う筋肉はまだ余裕があって楽だった。

 マヤクボノコルで小休止して残ったパンを食って最後の腹ごしらえ。日は既に高く上がって風が無いと暑いくらいで、これからマヤクボ沢に入ると風がブロックされるので半ズボンに履き替えてからロングスパッツとアイゼン装着。この時間では日が当たって雪が緩んでいるのでロングスパッツを付けた方がいいと判断した。

 アイゼンを利かせてマヤクボ沢の下り。カールの底までは傾斜が緩やか。先ほど針ノ木岳の下りですれ違った登山者のものと思われる真新しい登りの足跡は、私が歩いたカールの谷底を通るルートよりもずっと北側の高い位置に付いていた。おそらくマヤクボ沢をまっすぐ登ったのだろう。そのルートは間違いではないがカールの底よりかなり高い位置でカールに出るため、最後は斜面のトラバースになって歩きやすいとは言えない。下りの場合はカールの底まで下って傾斜が急になる境界で左にトラバース気味に下っていって、マヤクボ沢の中央に達してからまっすぐ下るのが一番歩きやすいだろう。

 アイゼンでの下りは踵に力をかけてブレーキにするが、これで苦になったことがないので気付かなかったが、主に使う筋肉は脛の筋肉だった。特に急な下りでは脛の筋肉を酷使し、登りで筋力が落ちたと感じた左足がここでも痙攣しそうになるほどきつかった。こんなことは初めてである。ただし、マヤクボ沢の急傾斜区間はそれほど長くはないためギブアップする前に傾斜が緩んでくれた。急傾斜区間では往路で追い越された男性の下りの足跡が見られた。

 マヤクボ沢の下部に達すると3人ほどとすれ違った。最後のダブルストックの男性はマヤクボ沢は初めてらしくルートを尋ねられたので、谷が右に曲がっているのでそのまま谷の中央を進み、上部に見えているハイマツの島の左を掠めて登るように伝えた。まあ、私の真新しい下りの深い足跡が残っているので分かりやすいだろうとも伝えておく。ここからだと針ノ木峠方面は尾根の裏側でどれくらいの人数が登っているのか分からないが、通常ならあちらの方が人数が多いはずだ。

 マヤクボ沢出合に出ると下流に数人の登山者の姿あり。ノドでは3名が休憩中。その下流では登ってくる人が数人見えている。今回すれ違った人数の合計はは20〜30人程度だった。雪渓末端に達してもまだ登ってくる人がいたが、スキーヤーが多かった。長いスキーを担いで根曲がり木の藪を通過するのはかなり酷だろう。

 雪渓末端手前の標高1800m付近で夏道が篭川の河原に下りる付近に達してからは春の花探し。例年だとここでシラネアオイが咲いているはずで、笹が生えた左岸側斜面をよ〜く見るとまだ数株だが今年初めてのシラネアオイを発見! これだけでも来た甲斐があるというものだ。ここで最も多く咲いていた花はオオバキスミレで今が真っ盛りだった。ショウジョウバカマも見られた。

 雪渓末端で流れの右岸側の雪が消えた河原を歩いて、右岸の急な斜面下部にへばりついた残雪に乗る。これ以降は往路と同じルートを辿った。大沢の雪渓付近は道が無く根曲がり木の藪だが、ここで道を探してウロウロしている若者に遭遇。そりゃそうだろう。ここは例年なら雪が残っているのが今年は雪が消えてしまっているので道が無いこと、道は気にせずに篭川の流れに沿って歩きやすいところを選んでこのまま上流を目指して歩いていけば、そのうちに雪が出てくることを伝えておいた。大沢周辺の藪の中では今年初めてのヒメイチゲやエンレイソウが見られた。

 赤沢出合付近で広範囲に雪が登場して藪から解放されるが、明らかに例年よりも雪が少なく、特に篭川本流上の雪が少なくてあと2週間もしないうちにスノーブリッジが消失して右岸と左岸を自由に行き来することができなくなりそうだった。雪が消えて藪を回避するために大沢小屋の荷上げ道を利用するためには篭川本流を渡る必要があるが、橋がかかるのは昨年だと少なくとも7月中旬以降であり、今年は夏山前でも夏道経由で登る期間が長くなりそうだ。

 標高1600m付近の堰堤を越えると廃林道に降り立つが、ここも例年より残雪が少なくてほとんど土が出ていた。現役の林道に乗って鳴沢出合のデブリ押し出しによる残雪もかなり少ない。林道脇ではサンカヨウ、キジムシロ、オオタチツボスミレ、タチツボスミレが咲いていた。ベニバナイチヤクソウの群生地ではまだ蕾だったが、おそらく来週には開花しそうだ。北アルプスでも限られた場所でしか見られない花であり、今年も咲いている姿を鑑賞したいものだ。

 関電トンネルに通じる舗装道路に出ると高齢者のグループが散策中。私は車道脇で春の花の写真撮影に勤しむ。特にニリンソウとタチツボスミレ、キジムシロが多く咲いていた。車道のショートカット道の樹林帯では他にタチカメバソウも多かった。ニリンソウは通常は真っ白な花だが、中には淡いピンクの個体もあった。雪渓斜面に咲いていたオオバキスミレがこんな場所でも見られた。

 扇沢駅ではちょうど電気バスが関電トンネルへと出発するタイミングだったが、3台がつながって出発していったので客はそれなりに多いらしい。駅の正面側には何台もの大型観光バスが止まっていたが、有料駐車場はガラガラだった。私が駐車した無料の市営第一駐車場は満車であったが、まだハイシーズン前で駐車場入口には整理員はいなかった。着替えて駐車場を出るとすぐ下の第二駐車場はガラガラだった。柏原新道周辺の駐車場は7,8割程度の入りでまだ空きがあった。おそらく南尾根はかなり藪が出てしまっているだろうが、まだ夏道は危険だろうなぁ。残雪期と夏山シーズンの端境期は爺ヶ岳は登りにくい時期だ。

 今日は好天の割には気温が低めで、下りでは扇を全く使わずとも汗をかくことはなく、おかげで舗装された車道に出て途中の沢で水浴びする必要はなかった。そういえば車道をショートカットする登山道上で昨年までは水が流れていなかった場所で沢が流れていた箇所があった。残雪期を過ぎても流れが切れない場合は新たな水浴び場にできるかもしれない。


 今回の山行でも足の疲労度はコロナ罹患前より格段に強かった。アイゼン装着で標高差1400mでこのレベルでは、同じくアイゼンが必要で標高差1700mの白馬岳では途中で休憩を入れないと山頂にたどり着けないかもしれない。でも白馬岳ではもうツクモグサが開花しており、梅雨に入る前に登っておきたいところだ。いつもより時間をかけてでも登りに行くか。

 

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